海外で継承語としての日本語学習を続ける大きなモチベーションの1つになっている、イギリスのGCSE。2022年、13歳で日本語受験にチャレンジしたMさんは最高グレードの9を獲得!
今回は、Mさんのお母さんにこれまで日本語教育の道のり、バイリンガル子育てのヒントをインタビュー。悩んだ日々を乗り越えて、一緒に日本語で共感することのできる今にたどりつき、次はAランクにも挑戦してみたいというお子さんの成長までを振り返っていただきました。
MさんママDATA
◆イギリス ロンドン
◆お子さん 14歳
◆日本語学習歴 補習校6年修了/オンラインレッスン
◆GCSEスコア グレード9
1.日本語教育の始まり 赤ちゃん~幼稚園時代
ー最初に日本語教育はいつ頃、どのように始められましたか?
小さいうちから子供には完全に日本語で話していたのと、テレビ、音楽などもすべて日本語にしていたので、幼稚園に入るまでは日本語が強く、3歳ぐらいからはもうあいうえおを書いたりしていました。日本語のプレイグループに参加したりもしましたが、近所の日本人のママ友達のコミュニティがあったので、ふだんから日本語での交流は多く、日常のなかで自然と日本語を聞いたり話したりする機会は多かったと思います。
ー言葉が増えてくる幼稚園になってから、気をつけていたことはありますか?
幼稚園が始まると英語のインプットが増え、日本語で理解していても英語で返してくるようになったので、「日本語で言おうね」と日本語で言い直すように言ってきました。子どもは現地語の方が楽なので、そう言うとため息をつかれたり、いやな顔をされたりしましたが、毎日続けました。ここで放っておくと絶対に現地語オンリーになってしまうので、こちらも嫌な思いをするけれどあきらめなかったというのが、結果的に大事だったのだなと思います。この習慣は今でも続けていますが、親もとても根気がいるところですね。
「日本語で話そうね」というのは、親も大変根気がいること。
毎日の小さな積み重ねですが、お子さんが意志をもってくると機嫌を損ねたり、話さなくなってしまったりするので、言い続けるのがめんどうになり、挫折する方も少なくありません。ここでもう一歩踏ん張れるか、がポイントですね!
2.小学校 補習校時代
ー補習校に通うようになって、どのように勉強を進めていましたか?
私の仕事の関係で週末に時間が取れず、あまりかかりっきりで見れていなかったような気がします。特に、小学3年生ぐらいからはどんどん内容が難しくなっていき、音読や本読みも家ではほとんどやらなくなっていましたが、それでもあきらめきれずに宿題だけはやるように言って、喧嘩したり怒ったりしながらも隣に座って夜遅くまでみたりしていました。
そのころは日本語が親子ともにものすごくストレスになって、「日本語=嫌なこと」になってしまっていて、今思い出しても私も子どもも辛かったし、かわいそうだったなあと思うのですが、『小学校6年間は頑張る』というのが親子ともに目標にもなっていたので、とにかくできることだけでもやろうと、細々と続けていました。
ロックダウン中は時間もわりとあったので、その期間は日本語の勉強をすすめることができましたが、古典などはもう難しかったと思うし、それでもがんばってよく続けられたなと思います。
「小学3年生の壁」と私はよんでいますが、2年生まではなんとか日本の教科書についていけても、3年生から語彙や音訓読みが一気に難しくなるので、そこを越えられるかどうかも1つの分かれ目になってきますね。
ー補習校時代、嬉しかったことはありますか?
ハーフターム中に自分で全部書いた作文が、補習校の文集にそのまま掲載されたことがありました。私も手直ししていない状態で、そのまま載せてもらえたことは自信にもつながったし、本人もとても喜んでいました。
ー日本語学習を続けていくモチベーションはどのように保ちましたか?
うちの子はマンガにもアニメにもそれほど興味がなかったので、どうやったら日本語を身近なものにできるか、という部分では苦労しました。私にとってはルーツである日本のいい所をみてほしい、誇りを持ってもらいたい、という気持ちが強くあり、本人としても日本の家族と話したい、6年生の最後までは頑張りたい、という気持ちでなんとか続けたのでしょうね。それほど日本語が嫌だという時期があったにも関わらず、そんなことはとても私に言えなかったのか(笑)「日本語学習を辞める」という選択肢はありませんでした。
ーでは、小学校卒業、GCSE受験まで日本語学習を続けていくにはどうしたらいいでしょう?
一番大事なことは、大変だなと思っても決してやめないこと。私もいつもどこまでできるかなあと思っていたので、それがどれほど大変なことかはよくわかるのですが、とにかくできることだけでもいいからやめずに続けることですね。宿題も全部はできなくても、「絵日記だけはやろう」「漢字練習だけはやろう」と、小さいことでも続けることです。まず目の前のことを一週、一週乗り切る、そして小学校が終わるまで頑張る、そしてそのあとGCSEというふうに一つ一つ波を越えていくと、気がつけばどんどん大きい波も乗り越えていっているものだと思います。
- 小さいことでも「続けること」が大事!
- 今できることを「~だけはやろう」とやってみよう。
- 目の前の1つ1つをまず乗り越えよう!気づけば大きい波も乗り越えているはず。
3.13歳でのGCSE受験
1.GCSE受験について
ー受験をしてみて、難しかったと思うところはありますか?
最初に過去問をやらせてみた時は、あまりにできなくてショックを受けたぐらいでしたが、何年分もの過去問を解いていくうちにコツややり方に慣れてきて、試験の本番でも似たような問題だったのでよくできたと言っていました。
GCSEの日本語は『学問』としての日本語になるので、かえってネイティブには難しいところもあるなと思います。『ですから』の使い方など、ネイティブにとっては違和感のある言い方でも、文法的にはその方が合っていることもあったりしますよね。
ー大きな目標の一つをクリアされた今、一番嬉しいことはどんなことですか?
ここにたどり着くまでは、日本語教育に関しては迷いの連続でしたが、今回の試験で彼女自身が日本語に「自信を持てた」ということが最高の結果だったと思います。最初は私自身も半信半疑なところがありましたが、結果的に最高グレードを取れたということはなにより本人の自信に繋がったと思います。
今は日本の様々な番組や動画配信、映画を日本語で見て、聴いて、共感したり、泣いたり笑ったり、感動を分かち合えることができるようになったことがとても嬉しく、今振り返れば自分が目標にしていたゴールはこういうことだったのかなと思っています。諦める可能性はいつでもあったのに、いつの間にかこの地点に到達していたことが感慨深いですね。
2.オンラインレッスンについて
ーKAZAHANAオンラインレッスンで気に入っているところはどんなところですか?
GCSE対策だけでなく、日本の今のニュースや文化、イベント、伝統文化のことなど、ネタが多岐にわたっているので、内容が盛りだくさんで飽きません。時事問題やテーマも子どもが興味を持てる内容だし、大人が受けても楽しい授業です。オンラインでも中身がとても濃く、資料などのレイアウトも見やすくわかりやすいですね。
GCSEの試験に関しても、過去問や類似問題を毎週まんべんなくやったり、事前にいろいろと受験するときのヒントを聞いていたりしたので、とても参考になりました。
ーグループレッスンはどうですか?
最初は、グループレッスンはどうなのかなと思う気持ちもありましたが、実際にやってみると他の生徒さんの日本語を聞いたり、一緒に受けたりすることがよい刺激になっていたようだし、モチベーションも続くので、良かったなあと思っています。
4.バイリンガル子育てをがんばるご両親に伝えたいこと
自分がまだ子どももいなくて若かった時、日本人の親から生まれたのだから、子どもが日本語を話す事、理解することは当たり前、補習校も行くのが当然のように思っていました。
でも子どもが育っていく中で、それは決して当たり前のことではなかったんだなあと実感しています。現地校が忙しくなり、補習校も続けていくこと自体が大変になり、日常的に日本語環境を保つのもどんどん難しくなっていく中でしたが、なんとか途切れずに続けてきたことが、「読み書きができる」「日本語をそのまま理解できる」という今につながってきたと思います。
私は子どもに「どうして日本語をやらないといけないの?」と言われたとき、「日本にルーツがあるのだから、日本に住みたいと思った時、日本で何かをしたいと思った時に言葉ができればそれが可能になるから」「将来の選択肢が広がるよ」ということはずっといい続けてきました。
私も日本語教育に悩んでいる時、先輩のママたちから「いつかはきっと感謝されるから」と言われてきましたが、今になって私の口ぐせと同じように、「日本語を勉強していることで人生の選択肢が広がった」と娘が言ってくれることがその答えだと思っています。
壁にぶつかる、ということは日本語を続けているから、頑張っているからこそ起こること。それを1つ1つ乗り越えて、細々とでも続けていくことが、子どもの一生の財産になります。その時はわからなくても、必ずわかるときがきますから。
これまで見てきたどのバイリンガルのご家庭でも共通しているのは、海外にいて親が何もせずに日本語ができるようになったという事例はないということ。この毎日のほんの少しを、忍耐強く1つ1つ積み上げたことが、みなさん最後には大きな結果につながっています。
日本語学習に1メートルの大きな一歩はなく、1mmずつの積み重ねが気付けば1mに繋がっている、そんなふうに思います。
その一歩ずつが「子供の一生の財産になり、必ずわかるときがくる」というのはとっても頼もしいお言葉ですね!